食思三昧

 

鴻森 悟 さんと初めて出会った頃のお話     斎藤 ゆう  2006年12月 記  私がまだ20代前半の頃であります。南アルプの甲斐駒ケ岳の麓に山好きの人や釣り好きの人たちが集 まり小さなログハウスを建てていました。私も何度か東京から皮むきのお手伝いに行った記憶がございます。 まさか私自身ここから車で約30分ほどの場所に住むとはその当時夢にも思っていませんでした。 そのオーナーであります鴻森 悟さんとはそれ以来、お付き合いさせていただいております。 その鴻森さんが作るマスや岩魚の燻製は煙の色付き具合や香り、肉離れや湿度具合などどれをみても絶品 です。これから数回に分けて燻製のお話を鴻森さんからここのページに書いていただくことになっております。 ご期待ください。(年末頃かな)                                                                 斎藤 ゆう          マスの燻製

  まずは自己紹介から  鴻森 悟                              06 、12,29

釜無し川水系と筆者   釜無し川水系と筆者


  白州は名水百選にも選ばれ、甲斐駒山麓の風光明媚な地です。

そこに土地を求め、友人と小さな丸太小屋を作ったのは、まだログハウスなる言い方が

一般的になる前で、私達も、仲間達も独身で若さに満ち溢れ、時間も金も“あるだけ”は

使えた時空間でした。ツパイ工房の斉藤夫妻も勿論独身で、小屋作りを手伝いに来てくれ、

作業の後は夏なら近くの渓流で水浴びがてら汗を流した、なつかしき時代でした。

山梨は封鎖的な土地柄で、小屋作りの時も、『やれ丸太の搬入時に道が削れた』、

『檜の苗木が折れた』と何かと都会人は“よそもの”として扱われた時代でした。

少しずつ山梨が変わりだしたのは、丁度、斉藤君が盛大な結婚式を挙げた頃からのよ

うな気がします。自慢の髭を剃った紋付袴姿の斉藤君が、なにしろ男前であったこと

を敢えて報告しておきます。

しかし、その頃から日本各地の山奥で釣れる岩魚、山女にも変化があらわれてきまし

た。

些細なことかもしれませんが、このことは後日に記していきたいと思います。

この場をお借りして、私の好きな山釣りを通して、川魚(鱒族)の旬な話題を、燻製

などの味覚と併せてお伝えしていきたいと思います。



燻製のお話    鴻森 悟 
@<燻製との縁>


                       完成した燻製
まず今回の掲載の発端となった、川魚(鱒)の燻製について紹介していきます。

四季折々の恩恵を受けて、食は益々豊かに、私達に楽しみを与えてくれます。

燻製作りは、寒風が吹き、甲斐駒の尾根が雪に染まる頃から、春一番の吹くまでがベ

ストシーズンで、我が家にとって燻製作りは、冬の風物詩となっています。

好きな渓流釣が禁漁期に当たるこの時期、マンション住まいの我が家のベランダは、

燻製作りの場と化し、洗濯物の代わりに風乾の魚が壮観に並びます。

カラス避けに格子を取り付け、近所に煙害の及びにくい風のある夜に燻煙をかけ、寒

気の中での魚を捌く作業も含め、かなり時間と労力を要します。

しかし手間は、それに見合うだけの、結果をもたらしてくれます。手製の燻製を肴に

しての晩酌は最高です。また贈った人から喜ばれることが造る喜びとなってきます。

さて、私が燻製作りを本格的に始めたきっかけから話しをしてみましょう。それは、

ある方から頂いた『手製の虹鱒の燻製』に始まります。

人生を外す程に渓流釣りに凝った私は、その頃からルアー釣りにハマリ、禁漁期とな

る冬場は管理釣り場で鱒族と遊んでいました。

釣った魚は『どうせ何れは釣り掘りで子孫を残すことなく死んでゆく運命なら、食べ

られて本望・・』と、リリースすること無く全て持ち帰り、塩焼き、ムニエル、など

家族で食べ、近所に配りはしたものの、余りの量に、やがては飽きられてしまいまし

た。そんな時に、出会ったのが

燻製でした。燻製はそれまでにも、作ってはいましたが、本格的ではなく、これを契

機にもともとマメな性分の私の燻製作りが始まりました。

更に、私が手ほどきして釣りを始めた友も、私と同様の行動をとった為に、やはり魚

の処分に辟易してしまい、彼もまた燻製作りを始めたのでした。

当時、彼は季節を問わず、『管理釣り場』に毎週のように通っては燻製を作り、会社

の仲間達に配りまくったのでした。彼の燻製は珍しさもあって会社でたちまち評判と

なり、その量たるや、始めてから2000尾を越える程になりました。スモーカーを自作

し、次第に腕を上げる彼の燻製

に対し内心負けてはいられません。

どうすれば拘りの味が引き出せるか・・、この試行錯誤の道が、今の私の『薫製作り

の拘り』となりました。持つべきものは運命と友に他なりません。

さて、燻製の出来、不出来とは何でしょうか。燻製は、見て楽しみ、香りを楽しみ、

素材を味わうものです。風味と香り、塩加減とコク、煙の色付き、が出来不出来のポ

イントとなります。

更に、その味を活かす為の要素は重要で、素材の良し悪しと、仕込み、風乾の過程で

決まります。私は新鮮な魚を、にがり塩と昆布・酒で締め、寒風にさらし、味を引き

出します。

すると魚は、肴に昇華し、良き酒の友と変化していくのです。

次回は燻製の素材についてお話ししていきます。
                                                        
                                                        鴻森 悟  
                                                        2006年12月29日

   
                  つづきは <魚の素材について>2007年1月20日掲載いたします。   お楽しみに。。。。


A<魚の素材について>    07・1月20日UP

燻製釜

 燻製釜

少し昔、安直に管理釣り場に行っていた頃に話は遡ります。
当時一番頻繁に通っていたのは、「A」という埼玉県と板橋区の境界付近にある、ル
アー・フライ専用池(釣り堀)でした。
自宅から車で40分程にある手頃な釣り場の為に、冬場は毎週のように通っていました
ちなみに料金は3時間で2000円、住宅地に20m四方程度の池が4面あり、地下水を汲み
上げている為に、水は澄んで見えます。そこに魚はウジャウジャ見えるのですが置物
のように定位して動きません。
そしてもう一つ驚くことは、池に泳ぎまわる魚族達です。虹鱒、山女、岩魚、川鱒、
までは納得しますが、‥‥ブラウン、タイガー、ストライパー、ペイレイ、グレーリ
ング、イトウ、アメリカンキャットフィッシュ‥‥と世界の魚が共存しているのです
休日ともなると、2m置きに釣り人が並び、竿とリールを持ち、池を凝視している姿は
、釣りをしない人からみればきっと異様なことでしょう。
隠れる場所もなく、人に凝視され、スレッカラシとなった魚達はそう易々と鉤に掛か
ってはくれません。
苦労(技術)して釣針に掛けても、養魚場育ちの鱒達は、引きも弱く魚体もボロボロ
の魚も多くてがっかりしてしまうこと暫しです。
池が汚れる為か、餌も与えられずに飢えて死魚をつつく‥‥。
それでも40回近く通ったでしょうか。燻製用の魚の質を追求する私の足は止まりまし
た。
また自宅の近くには、夏はプールで冬にルアー・フライ釣り場としている池がいくつ
かありますが、何れも水の入れ替えが無いためにオープン後1ケ月もすると、水深の
ないプールは濁りを増して死魚が漂うようになってしまいます。
ここにも40回近く通って足は遠のきました。
その後は、奥多摩の河川を利用した自然渓流型の管理釣り場に通うようになりました
ここには自然環境の為に餌となる水性昆虫や小魚も生息していて、池よりはるかに環
境は豊かでした。晩秋の紅葉の季節は佇んでいるだけで心地よいロケーションは感動
的ですが、ここには難点がありました。
台風や増水が来るたびに、釣り場は荒廃し漁場整備が必要となり、お休みとなってし
まうのです。
こんな経緯もあって、現在、趣味の釣りと、魚の供給源となっている場所は、山梨県
の上野原にある『桂川ルアーフライ釣り場』です。
自宅(大宮)から約2時間強と近くはありません。しかし漁協が運営する釣り池は、
横を流れる鶴川の清流を引き込み、雑魚が多数共存する変わった釣り場です。
魅力は魚の“質”と“大きさ”です。ここは40cmを超える鰭の張った鱒の釣れる貴重
なポイントなのです。
天然物には及ばないもののパワー溢れる鱒族(虹鱒、岩魚、山女)の釣りが楽しめま
す。
次回はそんな素材を使っての“燻製の制作”についてのお話です。
(2月20日UP予定ですお楽しみに)

風乾の様子


自宅のベランダで風乾燥の様子です。


B<拘りの燻製の制作について>

 07/2/18 UP

私が燻製作りを始めた動機は単純です。

それは「食べて美味しかったから」、に他なりません。

しかし、同じ鱒でも燻製の仕上がりは、気候や天候によって微妙に変化し味に表れます。

この微妙な差を読み、活かすことが、物作りに共通する醍醐味のような気がします。

釣れた鱒をそのまま食するより美味い、‥そう思えたら大成功でしょう。

燻製は保存が利き、熟成の度合いによって味覚の変化を楽しめる素晴らしい料理法な

のです。

 


それでは、自慢の燻製についての本題についてお話ししましょう。

先にもお話ししたように、燻製はまず釣った魚の処理から始まります。

寒風の吹く冬場に、釣り場で活き締めとし、魚を腹から割いて、内臓、えら,血合い

を全て落とします。

肌を刺すような冷水で洗えば、下処理は完了です。

ここから、ソミュール液に漬込む方法と、直に塩を振る方法があります。

液に漬込む方法は、味が均質で、ちょっとしたハーブや酒、香辛料によって作り手の

個性的な味が演出できます。

漬込んだ後、塩抜きに30分ほど流水にさらしますが、魚の大小など個体差によって塩

抜きのレベルが左右される以外は、いつも均質な燻製が出来上がり失敗がありません。

しかし私の手法は直接魚に塩を打つ方法です。

この方法でのポイントもやはり塩加減です。

これには少し経験が必要ですが、魚本来の旨みを活かす事ができます。

私の場合は、さらに昆布や酒で旨みを引き出します。

この場合のポイントは、魚全体に均質に塩加減が行き渡るまで、アイスボックスなど

で寝かせることです。

その時々の好みに応じた塩加減と、魚の大小によって1日〜3日といったところでしょ

うか。これで仕込みは完了です。

次の工程が、燻製作りで私が最も重要視している『風乾』です。

シーズン初期(晩秋の頃)は、日中の気温がまだ高いので、風乾は夜に限定されます。

1尾ずつ、腹が付かないように腹に楊枝を渡し開き、口も水抜けが良いように開け、

鰭を立て、寒風にさらします。凍るような寒い北風が吹く夜が最高の条件となります


大物を吊るした姿は、村上(新潟県)に伝わる「三面川の塩引き鮭」が厳冬期に軒に

吊るされて作られる風景を連想させます。しかし塩の馴染みが不十分だと表面に塩が

浮き出て燻煙時にムラができてしまいます。

良い風乾ができると、魚の表面に薄っすらと魚脂が浮き出てくるのです。こうなれば

良い味が期待できます。

このまま焼いて食べてみて「美味い」‥‥であれば成功です。

そして最後が『燻煙』の作業です。

チップは胡桃、桜、楢、林檎、ヒッコリーと多彩ですが、私は主に胡桃を使います。

桜は香りがきつく、魚の水抜けが不十分だと酸味が強くなります。

楢は色付きは良いのですが、煙を掛け過ぎるとエグミが出てしまいます。

また魚から水分の抜けが不十分の状態で燻煙をかけると、身が柔らかく、重さで身切

れをおこして燻煙器の中で落下してしまいます。

さらに注意すべきは、一度に多くの魚を処理しすぎると燻煙器内に水蒸気が多数発生

して天井から水滴が落ち、味を落とすだけでなく色付きにも、むらが出来てしまうの

です。

4〜6時間程度でアメ色に輝く燻製の出来上がりです。

出来たての燻製は、作る者だけが味わえる逸品です。

まだ温かい燻煙器からほかほかの燻製を取り出し、腹から背骨にそって身を割ると、

ほのかな香りと、柔らかでしっとりした、味わいが口に広がります。

熟成していない分、焼き物と燻製の中ほど食感ですが、炊き立てのご飯に載せお茶漬

けにしたら、素敵なダイエット食になりそうです。

作ってすぐではなく、2〜3日置いてから2週間程度が食べ頃です。

熟成するに従って、酒の肴に向く深みのある味わいに変化していきます。

特別に今回は、やや日数を経て(熟成)水分の抜けた燻製を、安酒の熱燗にに浸して

飲む。

そんな密かな楽しみ方も紹介しておきます。安いお酒が風味ある鱒酒に生まれ変わる

のです。

皆様も安酒と燻製があったら是非試してみて下さい。

寒い冬限定の楽しみ方です。

最後に、美味しい燻製作りのシーズンは冬場です。お忘れなく・・。
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